57歳、子どもが独立した夫婦。週末に一緒にやることが、もう何もなかった。

登場人物

浩(ひろし)、57歳と幸子(さちこ)、55歳。東京都在住。会社員の浩は定年まであと3年。幸子はパートで週3回働いている。子ども2人は独立済み。週末は夫婦それぞれ別の部屋で過ごすことが増えた。浩はリビングでテレビ、幸子は自分の部屋で読書。特に喧嘩しているわけじゃないけれど、会話が減った。「定年したら二人でどう過ごすんだろう」という不安が、二人の間にうっすらと漂っている。

土曜日の朝、あなたはリビングのソファに座って、テレビをつけた。

妻は2階の自分の部屋にいる。何をしているかは知らない。たぶん、本を読んでいるか、スマホを見ているか。

テレビでは旅番組が流れている。知らない街を歩くタレントが、おいしそうなものを食べて笑っている。

チャンネルを変える。ニュース。またチャンネルを変える。通販番組。また変える。

結局どこも同じに見えて、テレビを消した。

リビングに、静けさが戻った。

時計を見ると、午前10時。

「今日、何しよう」

その問いに答える人は、もういなかった。子どもたちが家にいた頃は、週末の予定が勝手に決まった。サッカーの試合の送迎、学校の行事、家族で買い物。忙しかったけれど、やることがあった。

今は、二人で過ごす時間がたっぷりあるのに、それをどう使えばいいかわからない。

50代の夫婦が陥る、「静かな距離」

妻の幸子と、仲が悪いわけではない。

30年近く連れ添ってきた。喧嘩もしたし、笑い合った夜もたくさんあった。子どもたちを一緒に育てた戦友のような存在だ。

でも最近、会話が減った。

「今日の夕飯、何がいい?」「何でもいいよ」。朝は「行ってきます」「いってらっしゃい」。帰ってきて「ただいま」「おかえり」。それだけだ。

共通の話題がない。子どもの話はもう必要ない。仕事の話を妻にしても仕方がない。趣味も違う。浩はゴルフだったけど、腰を痛めてからやめた。幸子はヨガ教室に通っているけど、浩には興味がない。

同じ屋根の下に住んでいるのに、二人の間に静かな距離ができていた。

定年まであと3年。定年になったら、毎日この状態が続くのかと思うと、少しぞっとした。

妻が、ぽつりと言った言葉

ある日曜日の夕食後、幸子が食器を洗いながら、ぽつりと言った。

「ねえ、私たち、二人で何か一緒にやることないかな」

あなたは驚いた。幸子も同じことを感じていたのだ。

「何か、って例えば?」

「わからない。旅行はたまに行くけど、毎週はできないし。料理教室は私一人で十分だし。何か二人でできて、体も動かせて、外に出られるもの」

あなたは「うーん」と考えたけれど、何も思いつかなかった。

ゴルフは腰が持たない。テニスは今から始めるのは恥ずかしい。ジョギングは妻が嫌がる。

その夜、布団に入ってからスマホで「50代 夫婦 共通の趣味」と検索した。

「畑を借りて野菜を作る」という、思いもよらない選択肢

検索結果に、見慣れないサービスが出てきた。

「シェア畑」。畑のレンタルサービス。

畑を借りて、自分たちで無農薬の野菜を育てる。道具も種も苗も全部揃っていて、手ぶらで通える。菜園アドバイザーが常駐していて、初心者でも失敗しない。週に1回通えばOK。

「へえ、こんなのがあるんだ」

あなたの実家は農家だった。子どもの頃、祖父の畑でトマトをもいで丸かじりした記憶がある。あのトマトは、スーパーで買うトマトとは別物だった。太陽の匂いがして、甘くて、少し青臭くて。

でも、東京で畑なんて持てるわけがないと思っていた。

シェア畑は、首都圏を中心に全国124農園を展開しているらしい。自宅から電車で20分くらいの場所にも、農園があった。

「これ、二人でやれるかもしれない」

翌朝、朝食の席で幸子に見せた。

「こういうの、どう思う?」

幸子はスマホの画面を覗き込んで、少し目を細めた。

「……面白そう。土をいじるのは嫌いじゃない」

久しぶりに、二人の間に「同じ方向」を向いた会話が生まれた。

浩と幸子が見つけたのは、このサービスだった

※説明会は無料。道具も種も全部込み。手ぶらで通える

初めての畑、初めての種まき

オンライン説明会に二人で参加して、近くの農園を見学した。

想像していたよりずっときれいだった。整った区画、並んだウネ、色とりどりの野菜が育っている。隣の区画では、60代くらいの夫婦がニコニコしながらトマトを収穫していた。

「こんな場所が、うちから20分のところにあったんだね」

幸子が、珍しく弾んだ声で言った。

契約して、翌週、初めての種まきをした。

菜園アドバイザーが、手取り足取り教えてくれた。土の掘り方、種のまき方、水のやり方。何も知らなかったけれど、一つひとつが新鮮だった。

幸子が小さな種を手のひらに乗せて、「ちっちゃい」と笑った。

あなたも笑った。何年ぶりだろう、二人で同じことをして、同じタイミングで笑ったのは。

「夫婦の会話」が、自然に戻ってきた

畑を始めてから、週末が変わった。

土曜の朝、「今日、畑行こうか」と声をかける。幸子が「うん、行こう」と答える。二人で車に乗って、20分。畑に着くと、自分たちの区画に向かう。

「あ、芽が出てる!」

幸子が声を上げた。先週まいた種から、小さな双葉が顔を出していた。

たったそれだけのことで、二人とも嬉しくなった。

帰りの車の中で、会話が途切れなかった。

「来週はもっと大きくなってるかな」
「トマトがなったら、サラダにしよう」
「隣の人、ナスをもらったって喜んでたね」
「アドバイザーさん、面白い人だったね」

あんなに静かだったリビングが、畑の話で満ちるようになった。

冷蔵庫には、自分たちが育てた野菜が並ぶようになった。ミニトマト、きゅうり、ナス、ピーマン。スーパーの野菜とは、味が全然違う。

幸子が、採れたてのトマトをそのまま齧って言った。

「ねえ、これ、おいしいね」

あなたも齧った。甘くて、少し青臭くて、太陽の匂いがした。

子どもの頃に祖父の畑で食べた、あのトマトの味だった。

「定年後の過ごし方」が、もう怖くなくなった

畑を始めて半年。

あなたは定年が、前ほど怖くなくなっていた。

定年になったら、今は週1回の畑を、週2回にできる。もっと手をかけて、もっと丁寧に育てられる。秋には白菜やほうれん草も挑戦したい。

幸子は「来年はハーブもやりたい」と言っている。バジルを育てて、自家製のジェノベーゼを作るのが夢らしい。

週末の過ごし方が変わると、平日の気持ちも変わった。金曜日の夜が楽しみになった。「明日、畑だね」と言い合える相手がいることが、こんなに心強いとは思わなかった。

あの頃、リビングでテレビを消して、静けさの中にいた土曜の朝。「今日、何しよう」と答えのない問いを抱えていた自分。

今のあなたには、答えがある。

「畑に行こう」

もしあなたが、週末の過ごし方に迷っているなら

子どもが独立して、夫婦二人の時間が増えた。でも、一緒にやることが見つからない。

週末、同じ家にいるのに、別々の部屋で過ごしている。会話が減った。共通の話題がない。

定年後の毎日を考えると、少し不安になる。

もしそんなあなたがいるなら、「二人で土をいじる」という選択肢があることを、知ってほしい。

畑仕事は、特別なスキルも体力も要らない。道具も種も全部揃っている。週に1回、好きな時間に通えばいい。初心者でもアドバイザーが教えてくれるから、失敗する心配もない。

大切なのは、野菜を上手に作ることじゃない。

二人で同じものを見て、同じことに驚いて、同じタイミングで笑うこと。

それが、50代の夫婦に一番必要なものなのかもしれない。

二人の週末が、もう一度動き出す

※全国124農園。週1回、好きな時間に通えます

あの土曜日の朝、テレビを消した静かなリビング。

今、同じ時間に、あなたは妻と一緒に車に乗っている。窓の外には、朝日に照らされた畑が広がっている。

助手席で妻が「今日はきゅうり、採れるかな」と笑っている。

57歳。二人の週末が、もう一度動き始めた。