恵美(えみ)、52歳。大阪市在住。製薬会社の部長。独身、子どもなし。2020年にBTSのV(テテ)に出会い、6年間ARMYとして推し続けている。
3月20日の朝だった。スマホのアラームより先に目が覚めた。
リビングのソファに座って、イヤホンを耳に入れた。午後1時のリリースまで待てなくて、Weverseを開いた。タイムラインがARMYの投稿で埋まっていた。世界中が同じ朝を迎えていた。
午後1時。BTSの5枚目のアルバム『ARIRANG』が配信された。再生した。最初のトラックが流れた。イントロのピアノが鳴って、7人の声が重なった瞬間、恵美の目から涙が落ちた。
4年間、待っていた。この声を。
2020年、ステイホームの夜にVに出会った
BTSを知ったのは2020年の春だった。コロナの緊急事態宣言で、恵美は初めて長い休みを取った。製薬会社の管理職として30年間走り続けてきて、まとまった休みなんてなかった。一人暮らしのマンションで、何をしていいかわからなかった。
夜、テレビをつけたら、BTSのライブ映像が流れていた。7人の若い男の子たちが、空っぽの会場で踊っていた。コロナで観客を入れられないオンラインコンサートだった。客席に誰もいないのに、全力で踊っていた。
その中に、一人だけ目が離せない人がいた。V。テテ。目が大きくて、笑うと子供みたいな顔になる。でも歌い始めると、声が深くて、どこか切なかった。恵美はテレビの前で2時間動けなかった。
46歳だった。アイドルを好きになるなんて、人生で一度もなかった。会社では数字と報告書と部下の管理。家に帰れば一人。友達はいるけれど、週末に会うくらい。恋人はもう10年以上いない。心が動く瞬間が、いつの間にかなくなっていた。
テテの笑顔が、恵美の中の何かを溶かした。
4年間、画面の向こうのテテを追いかけた
それからの6年間、恵美の生活は変わった。朝、出勤前にWeverseを開く。昼休みにテテの投稿をチェックする。夜、帰宅してイヤホンをつけて、ソロアルバム『Layover』を聴く。テテの低い声が、一人のリビングに満ちる。それが恵美の一日の終わりだった。
会社では誰にも言っていなかった。52歳の部長がBTSのファンだなんて。部下の前では冷静に数字を読み上げる。会議では的確に指示を出す。でもスマホの待ち受けはテテだった。誰にも見せないけれど。
2022年、BTSが活動休止を発表した。メンバーが順番に兵役に就くことが決まった。テテが入隊する前、Weverseに最後のメッセージを投稿した。恵美は画面を見て、声に出して言った。「待ってる」。誰もいないリビングで。
4年間。長かった。テテのいないBTSは、恵美にとって半分の空みたいだった。ソロ曲は聴いた。過去のライブ映像も何十回も見た。でも7人の声が重なる瞬間が、なかった。あの瞬間だけは、過去の映像では埋まらなかった。
「ARIRANG」を聴いた朝、気づいたこと
3月20日、アルバムを全曲聴いた。泣いて、笑って、また泣いた。テテの声が、4年前より深くなっていた。兵役の間に、何を見て、何を感じたのだろう。声の奥に、以前にはなかった重みがあった。
歌詞カードを見た。韓国語が並んでいた。日本語訳を読めば意味はわかる。でも恵美は、翻訳ではなく、テテの声で聞こえてくる韓国語をそのまま理解したかった。テテが何を歌っているのか、テテの言葉で受け取りたかった。
6年間ARMYをやってきて、単語はいくつか覚えた。サランヘヨ。カムサハムニダ。クレ。でもそれだけだった。テテがWeverseで書く韓国語の投稿は、翻訳アプリに頼っていた。インタビューの動画は、字幕が出るまで待っていた。
52歳。今から韓国語を始めて、どうなる。そう思った。でも、恵美はもう我慢できなかった。6年間ずっと、テテの言葉を翻訳越しに受け取ってきた。テテがWeverseに書く韓国語を、アプリが変換した日本語で読んでいた。インタビューの動画は、字幕が出るまで待っていた。テテの声は聞こえるのに、言葉が届かない。ガラス一枚の向こうにいるような、もどかしさだった。
テテの歌を、テテの言葉で聴きたい。テテが何を伝えようとしているのか、翻訳者の言葉ではなく、テテ自身の言葉で受け取りたい。6年間ずっと感じていた、そのもどかしさに、やっと名前がついた。
テテの言葉を、テテの言語で受け取りたい
その夜、恵美はスマホで「韓国語 50代 オンライン」と検索した。今さら教室に通うのは気が引けた。仕事が忙しくて決まった時間に通えない。何より、52歳で韓国語教室に行くことを誰かに知られたくなかった。
いくつかのページを見ていくうちに、オンラインの韓国語スクールに辿り着いた。完全マンツーマンで、スマホがあれば自宅から受講できる。専属の講師がついて、LINEで質問もできる。初心者からでも始められる。講師は日本語も話せるネイティブだと書いてあった。
恵美は画面をスクロールしながら、胸の奥が温かくなった。テテの言葉を自分の耳で受け取るための韓国語。贅沢だと思った。でも、52年間、仕事以外のことに時間もお金も使ってこなかった。テテのために、自分のために、初めて「学びたい」と思った。
恵美が辿り着いたのは、ここだった
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もしあなたも、推しの言葉を自分の耳で聴きたいなら
K-POPが好きで、推しの歌詞やメッセージを翻訳なしで理解したいと思ったことはないだろうか。字幕を待たずに、インタビューの韓国語をそのまま聴き取りたい。ファンミーティングで、自分の声で一言だけ伝えたい。
オンラインの韓国語スクールなら、自宅から、自分のペースで、初心者から始められる。マンツーマンだから、周りの目を気にしなくていい。50代からでも遅くない。「推しの言葉を理解したい」という気持ちが、一番の教材になる。
あの一言を、自分の声で伝えるために
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恵美はスマホを閉じて、イヤホンをもう一度耳に入れた。『ARIRANG』をもう一度、最初から再生した。テテの声が流れてきた。歌詞の韓国語が、まだ聴き取れない。でも、これから聴き取れるようになる。
4年前、テテがWeverseに書いた。「待っててくれますか」。あの言葉を、恵美は翻訳アプリで読んだ。画面に「待っててくれますか」と表示されて、泣いた。でもテテが書いた文字は「기다려 줄 거죠?」だった。その文字を、自分の目で読めなかった。
テテは帰ってきた。今度は恵美が動く番だった。テテの言葉を、翻訳アプリではなく、自分の目で読む。自分の耳で聴く。52歳の恵美は、そのために今夜、最初の一歩を踏み出した。

