幸子(さちこ)、54歳。三重県津市在住。夫と二人暮らし。娘の美月(28歳)は名古屋で暮らしている。3年前に韓国ドラマにハマり、独学でハングルを覚えた。でも、自分の発音が合っているのかわからない。近くに韓国語教室はない。
夜の10時、リビングの明かりを落として、テレビの前に座る。
リモコンを押すと、韓国ドラマの続きが始まる。画面の下に白い字幕が流れていく。俳優の声が聞こえる。韓国語の響きが好きだった。柔らかくて、ときどき甘くて、怒るときは尖って、泣くときは震える。感情がそのまま音になるような言葉だと思った。3年前にたまたま1本再生してから、毎晩この時間がなくなった。
字幕より先に、意味がわかった瞬間
あるとき、ドラマの中で主人公の女性がつぶやいた。短い一言だった。字幕が画面の下に出る前に、何を言ったかわかった。「괜찮아(ケンチャナ)」。大丈夫。何度も何度もドラマの中で聞いてきた言葉が、字幕を通さずに耳に入ってきた。
胸が跳ねた。たった一語。でも、字幕という透明な壁の向こう側に、初めて手が届いた感覚があった。もっとわかりたい。字幕を追いかけるのではなく、あの声を、あの感情のまま受け取りたい。54歳の夜、リビングのソファの上で、その気持ちが火のようについた。
独学でハングルを覚えた。でも、発音がわからない
翌日から、独学を始めた。図書館でハングルの入門書を借りてきて、台所のテーブルで母音と子音を覚えた。ㄱ、ㄴ、ㄷ、ㄹ。記号のような文字を一つずつノートに書いた。パートから帰ってきて、夕飯を作って、洗い物を終えてから、テーブルの上にノートを開く。夫が居間でテレビを見ている横で、幸子は小さな声で発音を真似した。
YouTubeで韓国語の発音動画を見つけて、何度も巻き戻して聞いた。画面の中の先生が口の形を見せてくれる。真似する。録音して聞き返す。でも、自分の声が正しいのかわからなかった。動画の先生の声と自分の声が、似ているような、似ていないような。誰かに「合ってるよ」と言ってほしかった。でも、津市の近くに韓国語教室はなかった。
テキストの文法は読めるようになった。簡単な文は書けるようになった。でも、声に出すと、自分の口から出てくる韓国語はテキストの中の韓国語と別の言葉のように聞こえた。文字は覚えた。文法も覚えた。足りないのは、自分の発音を聞いてくれる人だった。
ソウルで、娘の横顔がまぶしかった
娘の美月は韓国が好きだった。大学生の頃にK-POPにハマって、独学で韓国語を覚えて、社会人になってからも年に一度はソウルに行っている。2年前、美月に誘われて、幸子も一緒にソウルに行った。
明洞の屋台で、美月がさらさらと韓国語で注文した。店のおばさんと笑いながらやりとりしている。幸子はその横で、何を話しているのかわからないまま立っていた。美月が振り向いて「お母さん、トッポギ辛いの大丈夫?」と聞いてくれた。幸子はうなずいた。
あの横顔がまぶしかった。同じ韓国ドラマを見て、同じ俳優の話で盛り上がれる。でも、美月は字幕なしで見ている。幸子はまだ字幕を追いかけている。同じものが好きなのに、その間に透明な壁がある。あの壁の向こう側に行きたい。美月と同じ場所に立ちたい。ソウルから帰ってきてから、その気持ちがずっと胸にあった。
「お母さん、オンラインで習えばいいじゃん」
ある日、美月に電話で話した。「韓国語、もっとちゃんと習いたいんやけど、近くに教室がなくてね」。美月は「お母さん、オンラインで習えばいいじゃん」と軽く言った。
オンライン。パソコンは苦手だった。「スマホでもできるよ」と美月が言った。「マンツーマンで、先生が専属でついてくれるところもあるよ。発音も見てもらえるし」。美月が一つのスクールを教えてくれた。完全オンライン。完全マンツーマン。先生は日本語もできるネイティブ。LINEでいつでも質問できる。発音の動画を送ったらフィードバックをもらえる。
発音を見てもらえる。ずっと、それが欲しかった。自分の声が合っているのか、間違っているのか、教えてくれる人が。
幸子が見つけたのは、ここだった
※完全マンツーマン。スマホでOK。初心者歓迎
初めてのレッスンで、先生が笑った
無料カウンセリングを受けた。スマホの画面に、韓国人の女性の先生が映った。日本語が流暢で、柔らかい声だった。幸子が「54歳で、韓国ドラマが好きで、独学で少しだけ勉強しました」と言ったら、先生が「素敵ですね」と笑った。
レッスンが始まった。先生が「自己紹介を韓国語でしてみましょう」と言った。幸子は、独学で覚えた文を震える声で言った。「저는 사치코입니다(チョヌン サチコイムニダ)」。先生がうなずいて、「発音、きれいですよ」と言ってくれた。
きれい。自分の発音が、きれいだと言ってもらえた。YouTubeの前で何百回も真似して、録音して、自信が持てなくて、でも続けてきた。あの時間が、無駄ではなかった。先生の言葉が、画面の向こうから胸に届いた。
レッスンのあと、先生とLINEでつながった。「わからないことがあれば、いつでも送ってくださいね」。台所のテーブルで一人で勉強していた幸子の横に、ようやく誰かが座ってくれた気がした。
もしあなたも、字幕の向こう側に行きたいなら
韓国ドラマが好き。韓国語の響きが好き。字幕なしで聞き取れるようになりたい。でも近くに教室がない。独学では発音がわからない。もしそんなあなたがいるなら、スマホ一つで始められる場所がある。
字幕の向こう側に、あの声がある
※入学金0円キャンペーン中。LINEで質問もOK
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レッスンが終わった夜、幸子はスマホを手に取った。美月にLINEを送った。
「今日、先生に発音きれいって褒められたよ」
既読がついた。すぐに返事が来た。
「お母さんすごい!!今度のソウル旅行、通訳お願いね笑」
幸子はスマホを持ったまま笑った。通訳なんてまだまだ先の話だ。でも、いつか明洞の屋台で、美月の隣で、自分の声で注文したい。トッポギの辛さを、韓国語で聞きたい。あの透明な壁は、少しずつ薄くなっていく。
リビングに戻って、テレビをつけた。韓国ドラマの続きを再生した。字幕が流れる。俳優の声が聞こえる。今夜は、いつもより少しだけ多く、聞き取れる気がした。

