54歳、25年前に「いつか必ず」と言った約束を、まだ果たしていなかった。

登場人物

浩二(こうじ)、54歳。愛媛県松山市在住の会社員。25年前、妻・久恵と結婚したとき、二人ともお金がなかった。指輪を買う余裕がなく、「いつか必ず」と言ったまま、25年が過ぎた。久恵はその約束を責めたことは一度もない。ただ、たまに他の女性の指輪に目が止まる瞬間があった。浩二はずっと、その視線に気づいていた。

結婚したのは、二人とも29歳の秋だった。

式は親族だけの小さな披露宴。引き出物もシンプルなものにした。新婚旅行は国内の温泉旅館に一泊だけ。それでよかった。お金がなかったし、二人ともそういうことにこだわらなかった。

ただ一つ、指輪だけは、どうしても用意できなかった。

「落ち着いたら必ず買う。指輪くらい、ちゃんとしたものを」

久恵は「いいよ、そんなの」と笑った。本当にそう思っているのか、気を遣ってくれているのか、当時の浩二には判断できなかった。ただその笑顔に甘えて、「いつか」を先送りにした。

それから25年が過ぎた。

二人で乗り越えてきた、あの頃

新婚の頃、二人で暮らした2DKのアパートは、冬になると隙間風が入った。石油ストーブを一台だけ買って、二人でその前に並んで座っていた。鍋をよく作った。安くて、温まって、二人で食べるのにちょうどよかった。

長男が生まれて、久恵が仕事を辞めた。浩二の給料だけで、子育てと家のローンを同時に払っていく日々。余裕なんてなかった。でも、不思議と辛くはなかった。久恵がいたから。

浩二が30代の半ばに、会社が傾いた時期があった。リストラの話が出て、眠れない夜が続いた。久恵は何も聞かなかった。ただ、朝になると温かい味噌汁が食卓にあった。それだけで、会社に行けた。

あの隙間風のアパートも、眠れなかった夜も、今では懐かしい。でも指輪のことだけは、ずっと胸の奥に引っかかったまま、25年間残っていた。

久恵の視線に、気づいていた

何年か前のことだった。

デパートで買い物をしていたとき、ジュエリーショップの前を通りかかった。久恵の足が、ほんの一瞬だけ止まった。ショーケースの中の、シンプルなプラチナの指輪を、ほんの数秒だけ見ていた。

浩二は気づいていた。気づいていたけれど、何も言えなかった。

久恵はすぐに歩き出した。振り返りもせず、何も言わなかった。いつもそうだった。欲しいものがあっても、言わない。我慢しているのとも違う。ただ、自分より家族を先にする人だった。

その背中を見ながら、浩二は思った。「いつか、必ず」また心の中で繰り返した。でも今度は、以前より少しだけ、その言葉が重くなっていた。

25回目の結婚記念日が、来月に迫っていた

今年の春、子どもが独立して、家を出た。

二人きりになった夜、久恵が「静かになったね」と言った。寂しそうでも、嬉しそうでもない、ただ静かな声だった。浩二は「そうだな」と返して、それきり二人で黙ってテレビを見ていた。

来月、25回目の結婚記念日がくる。

今年こそ、と思った。もう「いつか」ではなく、今年。子どもも独立した。少しだけ余裕もできた。あの隙間風のアパートから25年。久恵はずっと、指輪のない左手のまま、浩二の隣にいてくれた。

スマホで調べ始めた。「結婚指輪 オーダーメイド」と打ち込んだ。

いくつかのサイトを見ていくうちに、オーダーメイド専門の工房が目に入った。来店不要でオンラインだけで完結する。専任のプランナーが一対一で対応してくれる。10,000組以上の制作実績。刻印サービスもある。

刻印。二人の名前と、結婚した日付を入れられる。25年前から今日まで、ずっと一緒にいてくれた久恵への、言葉にできなかった感謝を、指輪の内側に刻める。

浩二は、相談フォームをゆっくり開いた。

浩二が見つけたのは、ここだった

※来店不要。オンラインで完結。10,000組以上の制作実績

記念日の朝、久恵の左手に

プランナーとのやり取りを重ねて、指輪が届いたのは記念日の3日前だった。

シンプルなプラチナのリング。内側に小さく刻まれた文字。久恵の名前と、1999.10.16。結婚した日の日付。

記念日の朝、久恵がまだ眠っている間に、浩二は小さな箱をダイニングテーブルに置いた。朝食を作った。味噌汁と、焼き魚と、白いご飯。昔、久恵がいつも作ってくれていたもの。

久恵が起きてきた。テーブルの上の箱を見て、足を止めた。

「何、これ」

「25年前の約束」

久恵が箱を開けた。指輪を手に取って、内側の刻印を見た。しばらく、何も言わなかった。

「遅すぎるよ」

そう言いながら、久恵の目が赤くなっていた。

「わかってる」

久恵は左手の薬指に、そっと指輪をはめた。窓から秋の朝の光が差し込んで、プラチナがかすかに光った。

もしあなたにも、果たせていない約束があるなら

「いつか必ず」と言ったまま、時間だけが過ぎてしまった。あの人は何も言わない。責めない。ただ、ずっと隣にいてくれている。

そのことへの感謝が、言葉にならないまま胸の中に積もっているなら。記念日でなくても、理由がなくても、今日が「いつか」になる日かもしれない。

オーダーメイドだから、二人だけの刻印を入れられる。来店しなくていい。オンラインで、あの人に内緒で、ゆっくり相談できる。

あの日の約束を、今から果たせる

※オーダーメイド専門。刻印サービスあり

あの隙間風のアパートで、石油ストーブの前に二人で並んで座っていた冬の夜のことを、浩二はときどき思い出す。

あの頃は何もなかった。お金も、余裕も、指輪も。でも、久恵がいた。

それだけで、十分だったのかもしれない。でも今は、あの頃言えなかったことを、指輪の内側に刻める。