57歳、12年乗ったミニバンの後部座席に、もう誰も座らない。シートの隙間から、息子の消しゴムが出てきた。

登場人物

信夫(のぶお)、57歳。新潟県長岡市在住。建設会社の総務課長。妻(55歳)と二人暮らし、子供二人は独立。12年乗った3列シートのミニバンが来月車検を迎える。

バックミラーに映るのは、空っぽの後部座席だった。

日曜の午後、信夫はスーパーの駐車場でエンジンを切った。助手席に妻が座っている。後ろの2列目も、3列目も、誰もいない。3列目に至っては、最後に開いたのがいつだったか、思い出せなかった。

12年乗ったミニバン。来月、車検が来る。

家族4人で乗っていた頃のこと

このミニバンを買ったのは、信夫が45歳のときだった。息子が中学1年生、娘が小学4年生。家族4人で乗る車が必要だった。

夏休みは新潟の海に行った。後部座席に子供たちが並んで座って、窓越しに海を指差していた。冬は湯沢のスキー場に向かう関越道を走った。チェーンを巻くのに30分かかって、子供たちが「まだー?」と騒いだ。

後部座席はいつも賑やかだった。息子と娘が肘掛けの取り合いをして喧嘩になった。妻が運転席の横から振り返って「静かにしなさい」と叱った。信夫はバックミラーでその光景を見ながら、黙って運転していた。うるさかったけれど、車の中が一番家族らしかった。

3列目のシートは、息子の友達を乗せるときに開いた。部活の遠征で、息子と友達3人を乗せて試合会場まで走った。帰りの車内で、勝った試合の話を子供たちがずっとしていた。信夫はバックミラーに映る子供たちの顔を見ながら、静かに笑っていた。

後部座席に、誰も座らなくなった日

息子は大学進学で東京に行った。娘はその2年後、就職で仙台に行った。二人が家を出てから、後部座席に座る人がいなくなった。

信夫は妻と二人でこのミニバンに乗り続けた。スーパーに行くとき、病院に行くとき、たまに妻と温泉に行くとき。いつも使うのは運転席と助手席だけだった。

後部座席はシートカバーをかけたまま、何年も座られていなかった。3列目は畳んだまま、荷物置き場になっていた。たまに振り返ると、誰もいない後部座席が広く見えた。

妻が「大きすぎるよね、この車」と何度か言った。信夫は「まだ乗れるから」と答えた。手放す気にならなかった。この車の中に、家族の時間が全部詰まっている気がして。

車検の見積もりが、30万円を超えた

ディーラーから車検の見積もりが届いた。タイヤ交換、ブレーキパッド、エアコンの修理。合計で32万円。12年目のミニバンに、32万円。

信夫は見積書をテーブルに置いて、しばらく眺めていた。あと3年で定年だった。退職金の使い道も考えなければならない。年金生活になれば、車の維持費は今以上に重くなる。車検代、保険料、税金、ガソリン代。一つ一つは小さくても、全部合わせると年間で50万円を超えていた。

妻が見積書を見て、静かに言った。

「もう、二人で乗る車にしない?」

信夫は何も言えなかった。妻の言葉は正しかった。二人暮らしに3列シートのミニバンは必要ない。頭ではわかっていた。でも、この車を手放すことは、あの後部座席の記憶を手放すことのような気がして、踏み出せなかった。

シートの隙間から、消しゴムが出てきた

次の週末、信夫は一人でミニバンの車内を掃除した。車検に出す前に、中をきれいにしておこうと思った。

運転席と助手席を拭いて、後部座席のシートカバーを外した。何年ぶりかに触るシート。子供たちが座っていた場所。シートの隙間に手を入れて、ゴミを取り出した。

古いレシートと、飴の包み紙と、小さな消しゴムが出てきた。

キャラクターの消しゴムだった。角が丸くなっている。息子が小学生の頃、車の中で宿題をしていた時期があった。塾の帰りに迎えに行って、車の中で漢字ドリルを広げていた。「車の中でやるなよ」と言ったら、息子は「だって時間ないんだもん」と言った。あの頃の消しゴムが、12年間、シートの隙間に挟まったままだった。

信夫はその消しゴムを手のひらに乗せて、しばらく見ていた。角が丸くなった小さな消しゴム。息子はもう25歳になって、東京で働いている。この消しゴムの持ち主だった少年は、もうどこにもいない。

信夫は消しゴムをポケットにしまった。

次の車は、今の二人に合うものを

その夜、信夫は妻に言った。「車、変えよう」。妻は少し驚いた顔をして、「いいの?」と聞いた。信夫は「二人で乗る車にしよう」と答えた。

新しい車を買う余裕はなかった。車検代に32万円、その上に新車の頭金。定年まであと3年で、大きな出費は避けたかった。

信夫はスマホで車の持ち方を調べ始めた。頭金なしで車に乗れる方法はないかと思った。調べていくうちに、月額定額で新車に乗れるカーリースというものがあることを知った。頭金0円で、車検も保険もコミコミの月額定額。突発的な出費がない。長岡の冬道に合う車を、プロに相談しながら選べると書いてあった。

二人で乗るなら、コンパクトな車で十分だった。月々の支払いも、今の維持費より安くなるかもしれない。信夫は画面をスクロールしながら、妻の顔を思い浮かべた。妻はずっと「大きすぎる」と言っていた。信夫がなかなか踏み出せなかっただけだった。

信夫が辿り着いたのは、ここだった

※頭金0円・車検保険コミコミ月額定額・国産輸入車300車種

新しい車が来た日

新しい車は白いコンパクトカーだった。ミニバンの半分くらいの大きさに見えた。妻は「かわいいね」と言った。信夫は運転席に座って、バックミラーを調整した。後部座席は2列目だけ。3列目はない。それでいいと思った。

妻が助手席に乗り込んだ。「近いね」と笑った。ミニバンのときは運転席と助手席の間に距離があった。コンパクトカーは、妻の声がすぐそばで聞こえた。

信夫はエンジンをかけた。静かなエンジン音だった。12年間聞いてきたミニバンの太いエンジン音とは違う、軽やかな音。

走り出す前に、信夫はグローブボックスを開けた。ポケットから、あの消しゴムを取り出して、奥にそっと入れた。妻には何も言わなかった。

グローブボックスを閉じて、信夫はギアを入れた。

もしあなたも、大きすぎる車に乗り続けているなら

子供たちが独立して、夫婦二人の暮らしになった。3列シートのミニバンに、もう家族4人で乗ることはない。でも手放せないのは、その車の中に家族の時間が詰まっているからかもしれない。

次の車検が、一つの区切りになる。大きな車の維持費を、今の暮らしに合った車に変えることで、月々の負担はずっと軽くなる。頭金なしの月額定額なら、まとまった出費もなく、新しい車に乗り換えることができる。

次の車は、今の暮らしに合うものを

※頭金なし・面倒な手続き不要・プロが車選びをサポート

最初のドライブは、妻と二人で近くの温泉に行った。コンパクトカーは長岡の細い道もすいすい走れた。駐車場に停めるのも簡単だった。妻は助手席で「楽だね」と言った。

帰り道、信号待ちでふとグローブボックスの方を見た。その奥に、息子の消しゴムが入っている。角が丸くなった、キャラクターの消しゴム。車は変わった。でも、あの後部座席の記憶は、ここにある。

長岡の夕日が、フロントガラスをオレンジ色に染めていた。隣で妻が、窓の外を見ていた。二人で乗る車の中は、静かだった。でもその静けさが、今の信夫には、ちょうどよかった。