54歳、17年一緒にいた猫がいなくなった。骨壺を抱いたまま、置き場所が決められない。

登場人物

沙織(さおり)、54歳。長野県在住。1ヶ月前に、17年間一緒に暮らした猫の「むぎ」が亡くなった。37歳のとき、子猫だったむぎを保護した。子どもが巣立ち、夫が単身赴任で家を空けるようになってからは、むぎだけが毎日そばにいてくれた。火葬を終えて、骨壺を持ち帰った。でも、その骨壺をどこに置けばいいのかわからない。リビングのテーブルに置いたまま、1ヶ月。毎朝、骨壺に「おはよう」と言っている。

リビングのテーブルに、白い骨壺がある。

1ヶ月前から、ずっとここにある。

毎朝、その骨壺の前を通るとき、「おはよう、むぎ」と声をかける。返事はない。当たり前だ。でも、声をかけずにはいられない。

17年間、毎朝この時間に、むぎが足元に来ていた。にゃあ、と小さく鳴いて、ごはんを催促する。寝ぼけた目で、こちらを見上げていた。

あの目が、もうない。

37歳で出会って、54歳で別れた

むぎと出会ったのは、37歳の秋だった。

職場の駐車場の隅に、段ボール箱があった。中に、手のひらに乗るくらいの子猫が1匹。茶色い毛。麦の穂みたいな色だった。だから「むぎ」と名付けた。

当時、息子は小学3年生。「猫飼いたい!」と大喜びだった。夫は「面倒見れるのか?」と渋い顔をしていたけれど、むぎが膝の上に乗った瞬間に折れた。

それから17年。

息子は大学に行き、就職して、家を出た。夫は3年前から単身赴任で東京にいる。

この家に残ったのは、自分とむぎだけだった。

朝はむぎに起こされる。仕事から帰ると、玄関で待っている。夜はソファで膝の上に乗ってくる。テレビを見ながら、むぎの背中を撫でる。それが、毎日の暮らしだった。

むぎは家族だった。ペットという言葉では収まらない。17年間、同じ屋根の下で、同じ時間を過ごした家族だった。

最後の夜、膝の上で眠った

むぎが体調を崩したのは、半年前だった。

食欲が落ちて、動きが遅くなって、高いところに登れなくなった。病院に連れて行ったら、腎臓が弱っていると言われた。17歳。猫としては、十分に長生きだった。

最後の夜、むぎはソファに座っている自分の膝の上に来た。いつものように、丸くなった。体が軽くなっていた。半年前の半分くらいの重さ。

撫でた。小さなゴロゴロが聞こえた。

翌朝、むぎは膝の上で動かなくなっていた。

温かかった体が、少しずつ冷たくなっていくのを、ずっと抱いていた。

骨壺を持ち帰った。でも、置き場所が決められない

ペット葬儀社で火葬してもらった。小さな骨壺に入って、むぎが帰ってきた。

リビングのテーブルに置いた。むぎがいつもいた場所の近く。

でも、そこが正しい場所なのかわからない。

人間の仏壇はある。でも、ペットを人間の仏壇に入れていいのか。ペット専用の仏壇を買うべきなのか。そもそも、骨壺をこのままテーブルに置いておくのは、むぎに失礼ではないのか。

ペット霊園に納骨する方法もある。でも、そうしたら会いに行かなければむぎに会えない。17年間、毎日一緒にいたのに、離れた場所に置くのはつらい。

「むぎ、あんたのお家、どこにしたらええんやろ」

骨壺に話しかける夜が、1ヶ月続いた。

「手元に置ける小さなお墓」という選択肢を知った

ある夜、スマホで「ペット 骨壺 置き場所」と検索した。

同じ悩みを抱えている人が、たくさんいた。骨壺をどこに置けばいいかわからない。霊園に納骨するのは寂しい。でも、テーブルに骨壺をそのまま置いているのも気がかり。

いくつかの記事を読んでいくうちに、「手元供養」という言葉に出会った。

霊園に納骨するのではなく、自宅に小さなお墓を置いて、そこに骨壺を納める。毎日、手を合わせられる。家族のそばに、ずっといてもらえる。

さらに調べると、本物の墓石で作られた小さなお墓があることを知った。

手のひらに乗るくらいのサイズ。でも、素材は本物の石。名前や日付を彫刻できるオプションもある。骨壺もセットで揃う。リビングに置いても、インテリアに馴染むデザイン。

「これなら、むぎのお家になる」

霊園に預けるのではなく、自分のそばに置く。17年間一緒にいた家族を、これからもそばに置いておける。

沙織が見つけたのは、この小さなお墓だった

※おひとり様用67,800円〜。名前や日付の彫刻オプションあり

届いた日、むぎの名前を指でなぞった

注文から1週間ほどで届いた。彫刻オプションで、むぎの名前と、生まれた年と旅立った日を入れてもらった。

箱を開けた。小さな石のお墓。手に持つと、ずしりと重い。石の重さが、ちゃんとした「お墓」だと感じさせてくれる。

彫刻された文字を、指でなぞった。

「むぎ 2009 – 2026」

涙が出た。でも、不思議と穏やかな涙だった。

リビングの窓際に、小さなスペースを作った。白い布を敷いて、お墓を置いて、骨壺を納めて、小さな花を添えた。

むぎの場所が、できた。

テーブルの上で行き場のなかった骨壺が、ちゃんとした「お家」に入った。

毎朝、「おはよう」と言える場所がある

それからの毎朝、窓際のむぎの場所に手を合わせる。

「おはよう、むぎ」

返事はない。でも、石のお墓に朝の光が当たって、ほんのり温かい。

息子が帰省したとき、むぎのお墓を見て言った。

「むぎ、ここにおるんやね。よかったね、お母さんのそばで」

夫も、テレビ電話で見て「ええ場所に置いてもらったな、むぎ」と言ってくれた。

むぎは、家族のそばにいる。離れた霊園ではなく、毎日「おはよう」と言える場所に。

それが、自分にとっても、一番の救いだった。

もしあなたが、骨壺の置き場所に迷っているなら

大切な家族を見送った。火葬して、骨壺を持ち帰った。でも、どこに置けばいいのかわからない。テーブルの上に置いたまま、時間だけが過ぎている。

霊園に納骨するのは寂しい。でも、骨壺をそのまま置いておくのも落ち着かない。

もしそんなあなたがいるなら、「手元に置ける小さなお墓」という選択肢があることを知ってほしい。

本物の墓石で作られた、手のひらサイズのお墓。名前や日付を彫刻できる。骨壺も仏具もセットで揃う。リビングの窓際や棚の上に置ける。毎日、手を合わせられる。

家族のそばに、ずっといてもらえる場所を作る。それは、残された自分自身のための、やさしい選択かもしれない。

ずっとそばにいてくれた家族に、ずっとそばにいられる場所を

※骨壺・仏具・仏花もセットで揃います

リビングのテーブルに、白い骨壺だけが置いてあった1ヶ月間。

今、窓際に小さなお墓がある。朝の光が当たると、石がほんのり温かくなる。

54歳。17年一緒にいた家族は、もういない。でも、毎朝「おはよう」と言える場所がある。それだけで、朝が少しだけやさしくなった。