義男(よしお)、55歳。岡山県倉敷市在住の会社員。2年前にソロキャンプを始めた。子どもの独立をきっかけに、週末に一人で山に入るようになった。最初はテントと寝袋だけだった。でも気がつくと、タープ、焚火台、ダッチオーブン、ランタン、チェア、テーブル、クーラーボックス、季節ごとのシュラフが3つ。ガレージの半分がキャンプ道具で埋まった。
日曜の夕方、キャンプから帰ってきた義男は、車のトランクからダッチオーブンを下ろしながら、ガレージの中を見回した。
テントが2張り。タープが1枚。焚火台が2台。折りたたみのチェアとテーブル。ランタンが3つ。クーラーボックスが大小合わせて2つ。シュラフは冬用、3シーズン用、夏用の3つ。そのほかに、コット、ペグケース、薪割り用の鉈、火吹き棒、スキレット、ケトル、コーヒーミル。
ガレージの壁際に、積み上がっていた。
妻の車が、端に寄せられている。それでもドアを開けると壁にぶつかりそうで、妻はいつも助手席側から降りている。
「もう入らんのじゃけど」
妻がそう言ったのは、先週のことだった。買い物から帰ってきて車を入れようとして、ガレージの中のキャンプ道具を見て、少しの間黙った。それから、静かに言った。「もう入らんのじゃけど」。
怒っているわけではなかった。でも、その声には疲れたような色があった。義男はダッチオーブンを持ったまま、「ごめん、ちょっと整理するわ」と答えた。答えたけれど、整理する場所がなかった。家の中にも、これ以上は置けない。かといって、どれも手放したくない。
53歳で始めた、一人の焚火
ソロキャンプを始めたのは、2年前の秋だった。末の子が大学に入って家を出た。週末の予定が空っぽになって、何をすればいいのかわからなかった。ゴルフには誘われたが、気が進まなかった。誰かと一緒に何かをするより、一人で静かに過ごしたかった。
YouTubeでソロキャンプの動画を見たのがきっかけだった。50代の男性が一人で山に入り、テントを張り、焚火を起こし、コーヒーを淹れている。それだけの動画なのに、義男はしばらく画面から目を離せなかった。焚火の音、虫の声、風が木の葉を揺らす音。その静けさに、引き込まれた。
翌週、テントと寝袋だけを買って、蒜山高原の麓にあるキャンプ場に行った。テントの設営に1時間かかった。焚火は何度も消えかけた。コーヒーは薄かった。でも、夜の山の中で焚火の炎を一人で見つめているとき、体の中にあった何かが、ふっとほどけた。
翌朝、テントから出ると、蒜山の山並みが朝もやの中にうっすらと浮かんでいた。草の上に朝露がついていて、空気が冷たくて、どこかで鳥が鳴いていた。その景色の中に立ったとき、義男は「これだ」と思った。
気がついたら、道具が家族になっていた
それから2年、義男のキャンプ道具は増え続けた。最初はテントと寝袋だけだった。でもキャンプに行くたびに「次はあれが欲しい」と思う。タープがあれば雨でも大丈夫だ。焚火台は軽量なのとじっくり燃やせるのと、2台あった方がいい。冬キャンプを始めたら、冬用のシュラフが必要になった。ダッチオーブンで煮込み料理を覚えたら、スキレットも欲しくなった。
一つ一つに、思い出がある。初めてのソロキャンプで使ったテントは、設営に1時間かかった相棒だ。焚火台は、岡山の専門店で店主と1時間話し込んで選んだものだ。冬用のシュラフは、去年の年末に蒜山で零下5度の夜を越えてくれた。どれも、「道具」ではなく「仲間」だと思っている。捨てるなんて、考えられなかった。
でも、ガレージはもう限界だった。
道具の「居場所」を見つけた夜
ある夜、妻が寝た後にスマホで「キャンプ道具 収納 場所」と検索した。いくつかの記事を読むうちに、「屋内型トランクルーム」という選択肢に出会った。
屋外のコンテナ型は知っていた。でも屋内型は違った。空調が効いていて、湿気でテントやシュラフの生地が傷まない。防犯カメラとオートロックで、大切な道具を安心して預けられる。24時間いつでも出し入れできるから、金曜の夜にさっと取り出して、そのまま山に向かえる。
「これじゃ」
最寄りの店舗を確認したら、車で15分のところにあった。義男は予約ページを開いた。
義男がスマホで見つけたのは、ここだった
※屋内型・空調完備。24時間365日出し入れ自由
ガレージが、ガレージに戻った
契約して、荷物を運んだ。テント2張り、タープ、焚火台2台、シュラフ3つ、チェア、テーブル、クーラーボックス。シーズンオフの道具をトランクルームに預けて、今使うものだけをガレージに残した。
妻が車を入れてみた。ドアが普通に開いた。
「あら、広い」
短い一言だったけれど、その声がいつもより少し軽かった。義男は「だろ」と答えながら、心の中で少しだけほっとした。
もしあなたにも、行き場のない道具があるなら
キャンプ道具でも、釣り道具でも、ゴルフの道具でも。好きなものを好きなだけ揃えていたら、いつの間にか家に収まらなくなっていた。捨てられない。一つ一つに思い出がある。でも、家族の生活スペースを圧迫し続けるわけにもいかない。
道具に、ちゃんとした居場所を作ってやる。それが、趣味を長く続けるための、もう一つの準備なのかもしれない。
趣味の道具に、ちゃんとした居場所を
※全国展開。最短即日利用可能
翌週の土曜、義男はトランクルームに寄ってから、蒜山に向かった。冬用のシュラフを取り出して、焚火台を積んで、高速に乗った。
テントを張って、焚火を起こして、コーヒーを淹れた。2年前の最初のキャンプと、やっていることは同じだ。でもあの頃より、テントは早く張れるようになったし、焚火はもう消えない。コーヒーも、ちゃんと美味しい。
55歳。焚火の炎を一人で見つめる夜が、まだまだ続く。その相棒たちの居場所は、もう見つかった。

